PSpice(評価版)で
DCマイクアンプを研究してみる



これは、“オーディオDCアンプシステム”上巻登載のDCマイクアンプのイメージである。

本来初段はFD1841、2段目差動アンプとカスコードアンプには2SA726(2SA872)、カレントミラーには2SC1400(2SC1775)、終段プッシュプルエミッタフォロアには2SC1775−2SA872だ。が、それらのモデルはないので、K30、A1015、C1815で代用する。

また、本来初段には2SC1400(2SC1775)による定電流回路とカスコードアンプがあるべきなのだが、評価版であるために回路に描けるTRの数が10個に制限されるので、定電流回路は電流源で代用し、カスコードは略さざるを得ない。実機ではカスコードで初段FETに掛かる電圧を下げないとゲート漏れ電流が多くなってまずい、ということになる訳だが、シミュレーションでは問題はない。

これはDCマイクアンプであるが、各部の構成も動作電流値もK式GOAアンプの典型のようなものである。だから、これを探ると電池式時代のGOAアンプのあらましが分かる。

初段の動作電流は差動アンプの片側がそれぞれ0.3mAであること、そして初段の負荷が3.9KΩであること。は、電池式GOA時代の定石だ。

初段のソースには半固定抵抗は入れない。接点1つも音を悪くするから極力排除する、というのがこの時代のポリシー。だが、それでは素子のバラツキ等により生じる出力のオフセットや終段のアイドリング電流の調整が出来ない。ので、出力のオフセットは初段の負荷抵抗にシリーズに小抵抗を挿入することにより調整する。面倒だが良い音を得るためだ。終段のアイドリング電流は、初段の定電流回路に指定のものを使えば(=正しく0.6mAに設定すれば)、この定数で無調整で6mA程度になることになっている。

実際このシミュレーションでも、初段右側の負荷抵抗3.9KΩに8.2Ωをシリーズに入れることによりオフセットはほぼ0Vに調整してある。また、この状態で終段のアイドリング電流は6mA強となっている。

さて、その出力の電圧利得特性と電圧位相特性はいかなるものだろうか、早速観る。






低域でのオープンゲイン68db、第1ポール≒35KHz、クローズドゲイン設定となる37dbポイントでの位相遅れは−95°となっている。

なるほど、DCマイクアンプのクローズドゲイン設定は37db程度だから、低域でのNFBは約30db程度得られる設定である訳だ。

2段目差動アンプに外付けされた2pFによる位相補正が効果的に利いて、位相余裕も十分な状態でNFBがかかる特性である。

しかも第1ポール≒35KHzと低過ぎもせず高過ぎもせずの絶妙なポイントに配置されており、全体として非常にバランスが良い。








位相補正を外して各部の電流ゲインを観る。

これでGOAアンプの各部の動作が大概分かる。







やはり完全対称型に比較すると動作対称性では微妙に劣っている。と言わざるを得ないか・・・。

グラフの一番下が初段の電流利得であり、3MHz程度までは2本重なっているものの、それ以降はかろうじて10MHz程度まで左右の対称性が保たれている状態だ。これは、初段にソース抵抗がなく電流帰還が掛からないためソース抵抗が入った場合に比べ対称性の破綻する周波数がやや低いのだ。

電流利得は−64.5db程度だろうか。−64.5db≒1/1680であるから初段のgm=0.6mSである。ソース抵抗が入っていないにもかかわらずごく小さい。これは動作電流が0.3mAと小さいからだ。

次に2段目差動アンプのカスコードアンプ出力点における電流利得が、低域で−24dbのところに2本重なっている線である。高域では200KHz付近から対称性が崩れ、線の上側が2段目の左側であり、線の下側が2段目の右側である。

電流利得は−24db≒1/16であるから、2段目カスコード出力点までのgm=62.5mSということになる。初段のgm=0.6mSであったから2段目自体の電流利得は62.5/0.6=104.2倍ということになる。

さて、2段目左側の電流出力は下のカレントミラーで折り返されて鏡に映した如くにC1815のコレクタの電流出力として現れる、というはずだが、実はそれが今の−24dbの2段目差動アンプの出力点の電流利得の線の下、大体−25.5db程度のところにある線なのである。

残念なことに、僅か1.5dbとはいえカレントミラーによる折り返しでは電流利得にこれだけの差異が生じてしまう訳だ。−25.5db≒1/18.9であるから、2段目カレントミラー折り返し後のポイントにおけるgm=52.9mSということになる。

GOAアンプでは、2段目上側のgm=62.5mS、下側のgm=52.9mSと、些か利得が異なるもの同士で終段をプッシュプルドライブしている、ということなのだ。



結果、グラフの一番上にある2本が終段PPエミッタフォロアのエミッタにおける電流利得である。
−15.5db付近の線が下側(Q9)エミッタにおける電流利得であり、−18.5db付近の線が上側(Q3)エミッタにおける電流利得である。

なんと3dbもの差がある。
下側の方の利得が大きい。のは上下がコンプリ指定されたTRといってももとより別のTRであるからやむを得ないことなのだろう。が、エミッタフォロア動作で100%の電流帰還が掛かっているのにこれだけの利得差が出るというのはちょっと・・・、という感もある。

ここはもう電圧出力であるので、終段で電流利得が増加したといっても、それがGM×負荷抵抗という計算で電圧利得には繋がらない。という点が完全対称型とは異なるところだ。

結果、−26db付近にある下から2本目の線が出力の50KΩのアース側における電流利得なのである。−26db≒1/20であるから、このアンプの最終的なGM=50mSである。ということになるのだ。

よってこのアンプに50KΩの負荷を繋げば50mS×50KΩ=2500=68dbのゲインが得られるはずだが、果たしてそれは上でみたように低域での電圧利得68dbとピッタリである。

が、ではこのアンプの出力に100KΩの負荷を繋げば倍の5000倍の電圧利得になり、25KΩの負荷を繋げば半分の1250倍の電圧利得になるか、というと、そうはならない。100KΩの負荷を繋ぐとアンプ自体のGMが半分の25mSとなり、25KΩの負荷を繋ぐと今度はGMが倍の100mSとなり、結果電圧利得はどの場合でも68dbとなるのである。


と、訳の分からないことを言ってはしょうもない・・・(^^;

この場合は終段がエミッタフォロアで、出力インピーダンスの低い電圧出力になっているから、もう負荷に比例してGM×負荷で電圧利得が決まる状態ではないのである。ここに繋がる負荷がどのようなものでも電圧利得は一定なのだ。シミュレーターはそれを負荷に合わせてGMを反比例させることによりここでもGM×負荷で正しい電圧利得として計算できるよう表現している、ということなのだ。PSpice、実に頭のいいシミュレーターだ。

では、このアンプの電圧利得を決めているのはどこか。

それは勿論、Q10コレクタ出力点における62.5mSとQ8コレクタ出力点の52.9mSがプッシュプル合成される=62.5+52.9≒115mSであり、その負荷であるR15=22KΩである。

終段は100%電流帰還(NFB)の掛かったいわゆるエミッタフォロアであるので、その出力電圧はR15に発生する電圧にフォローするだけだ。

アンプ出力に繋ぐ負荷抵抗をパラメトリックに25KΩ、50KΩ、100KΩと変化させ、R15における電流利得とアンプ出力点における電圧利得、電圧位相を観ることによりこれを確かめる。







結果は下図のとおり。

線が3本しかないように見えるが、実はどれも3本が完全に重なっていてそれぞれ1本にしか見えないのである。

要するにアンプの負荷が25KΩであろうと50KΩであろうと100KΩであろうと、GOAアンプは内部動作にその影響を被らない、ということなのである。この点は完全対称型とは好対照である。これが即ち終段のエミッタフォロアによりもたらされる効果であり、素子ゲインを100%帰還に回すことにより得られる功徳なのである。素子のハイゲイン&NFBとはかくもありがたいものなのだ。

グラフの1番下がR15出力点におけるアンプの電流利得である。実はこれがこのアンプの電流利得GMである。−19dbぐらいであろうか。−19db≒1/9であるから、GM=111mS程度ということになる。上でプッシュプル合成で115mS程度と計算したが読みとり誤差を考慮すればピッタリである。

であれば、このアンプの電圧利得はGM(111mS)×負荷R15(22KΩ)=2442倍=67.75dbとなるが、それがエミッタフォロア出力点である真ん中の線で68dbとなっている。読みとり誤差の範囲だ。

この2本の線をみると、その周波数特性が全く相似であることが分かるが、これは要するに100%電流帰還の掛かった終段エミッタフォロアの周波数特性が超高域(GHz領域)まで伸びていることを表している。であるからこそ前段に完璧にフォローしているのだ。

これらの周波数特性が低域の−3dbとなるのは500KHz付近であろうか。これは2段目に起用されているA1015とC1815のベータ遮断周波数によるものだろう。

で、アンプ出力における電圧位相がグラフ一番上の線で、これではこのアンプの第1ポールは350KHz程度と位相回転が早いが、利得のグラフの下降特性も−12db/octであることからしても、2段目において差動アンプのA1015とカレントミラーのC1815のベータ遮断周波数によるポールが重なっていることによるものであろう。

結果位相回転が−120°となるポイントは1.5MHz程度となっている。DCマイクのクローズドゲイン設定は37dbであるが、オープンゲイン時の37dbポイントはこれを大きく上回って5MHz弱であり、そのポイントで位相回転は−170°に達している。したがって、このままではNFBは安定に掛からない。発振するだろう。位相補償でスタガー比を稼がなければならない。








そこで2段目に2pFの位相補正がなされて、






上でも見たとおり、低域でのオープンゲイン68db、第1ポール≒35KHz、クローズドゲイン設定となる37dbポイントでの位相遅れは−95°となっている訳だ。しかも、それは負荷が25KΩでも50KΩでも100KΩでも変わらないのである。一番上と結果は同じなのだが、実はこのグラフでは線が9本なのだ。が、各線とも3本が全く重なっていて3本にしか見えないのである。

終段のエミッタフォロアがバッファとなって、負荷によるアンプ内部動作への干渉を遮断するのだ。







結果、仕上がりの特性はかなり整うわけだが、実は内部動作自体も終段の電流帰還というNFBによって最終的に整っているものであることが、各部の電流利得を観ることで分かる。





素顔はこうなのである。

NFB(ここではエミッタフォロアに掛かっている電流帰還)の威力は大きいということか。






このようにNFBの効果が大きい終段エミッタフォロアだが、では容量負荷に対しても絶大な遮断効果を発揮するだろうか。

録音アンプを繋いだイメージで負荷を10KΩにし、パラにコンデンサーを付加してみる。

1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pFのパラメトリック解析。



上が位相で下が電圧利得。共に上から1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pFがパラに負荷となった場合である。

残念ながらやはり影響を受ける。

負荷にパラになる容量値が増えるほどに電圧利得の高域での低下が早まると共に、位相の回転も速くなっている。

第1ポールが著しく低下するというような問題はないが、第2ポールの位置が低域に降りてくるという状況になるようだ。

この結果からすると、DCマイクのクローズドゲイン設定が37dbであることからオープンゲインが37dbのポイントにおける位相回転の状況により、1000pF、2000pF、4000pFの場合は当該ポイントでの位相回転が−120以内であるのでNFB後も安定であるが、8000pFでは−125°と安全圏の−120°を超えてしまっており、さらに容量が増えると位相回転がさらに進んだ状況になるので、このアンプでは8000pF以上の容量負荷が繋がった場合、NFBを掛けると発振する可能性がある。が、容量負荷が大きくなるとゲインの下降も早くなるので、結果32000pF負荷でも位相回転は−140°以内だから発振しないかもしれない。




これは出力に繋ぐ負荷抵抗を50KΩにした場合だが、結果は全く同じのようだ。





K先生の作例ではDCマイクアンプで出力に小抵抗をシリーズに繋ぐという策は採られていないが、試しにやってみる。

例えばたったの10Ωを入れてみる。
これで容量負荷耐性が高まるか?



役にたつようだ。

これで容量負荷32000pFでも位相余裕的には安全になることが分かる。

たったの10Ωが絶大な効果だ。これだと発振の心配は全くない。






次に方形波応答を観てみよう。先ずはオープンゲインでの10KHz方形波。





位相補正の2pFが利いて、適度になまった10KHz方形波が出力される。

振幅は±12.7Vpeakである。だからオープンゲインは12.7/0.005=2540倍≒68.1dbである。ピッタリだ。


オープンゲイン時の方形波応答がこんなになまってしまって、NFBを掛けた後にはまともな方形波になるのだろうか? と思うのだが、問題はないのだ。







NFBを掛けた状態での方形波応答。
10KHz方形波。

こちらの入力電圧は±0.2Vとする。NFBが掛かってアンプのゲインはクローズドゲイン=37dbと大きく下がるからだ。





実に問題ない内部動作であることが分かる。ほぼ理想的な出力波形だ。

出力電圧は±14.5Vである。したがってアンプのクローズドゲインは14.5/0.2=72.5倍≒37.21dbである。ピッタリだ。

さて、よく見ると、方形波の立ち上がり下がりの一瞬においてやや遅れている。



時間軸を拡大し、100KHzの方形波応答を観ると、その内容が分かる。

100KHzの方形波応答も実に立派なものである。

「当たり前だ。」 と天の声・・・ はっ。 m(__)m




と、ご容赦を頂いて(^^;、この際、負荷に容量負荷をパラって方形波応答を観ることにより容量負荷安定性と容量負荷ドライブ能力を探ってみる。

出力には、録音アンプを繋いでいることを想定し10KΩを繋ぐ。
さらに長いケーブルによる容量負荷をイメージしたCをパラに繋ぐ。
Cはパラメトリックに1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pF、そしてここではとどめの100000pF=0.1uFも繋いでみる。

これはどのような結果になるのか、実に興味深い。
さっそく100KHz方形波。




よく分かるように横軸を最低限の時間とした。これで100KHzの方形波1波(ワンサイクル)である。
線が7本ある。のは、左から容量負荷が1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pF、100000pFの場合ということである。

この方形波応答をみる限りにおいては、このアンプはこのような容量が負荷とパラになっても発振には至らない。という感じだが実際にはどうだろう。

こうしてみると、100000pF(=0.1uF)がパラになった場合はさすがに立ち上がり立ち下がりが間に合わず三角波になってしまうが、32000pF以下では十分に応答が間に合っており、エミッタフォロア出力の容量負荷対応能力がかなり高いものであることが分かる。

エミッタフォロア(電流帰還NFB)で素(=オープンゲイン時)の出力インピーダンスを下げ、さらにオーバーオールNFBで出力インピーダンスを下げてドライブ能力を確保したことの意味がここに現れているようだ。



こちらは10KHz方形波応答である。

同じく7種の容量負荷値に対応して7本の線がある。意味は100KHzの場合と同じだ。

こうしてみると100000pF=0.1uFが容量負荷としてぶら下がっても取りあえず大丈夫。という気はする。が、実際はどうなのか?は私の知るところではない(^^;




出力に10Ωをシリーズに繋いで同様に方形波応答を観る。

スルーレートが悪化し方形波応答波形がよりなまってしまうかもしれない。




確かにやや応答が遅れ、波形のなまりは大きくなることが分かる。

が、この程度ならOKだろう。

とはいっても、付けなくとも安定度においてOKなのだから、僅かでも応答が遅れてしまう10Ωを敢えて付ける意味はない。



こちらは10Ωを付けた場合の10KHz方形波応答である。

100000pF負荷の場合はこの状態からちょっと帯域的に見劣りする状態だと思えるが、32000pFまでなら十分許容範囲だろう。



参考までにこちらは出力にさらに大きく47Ωを付けた場合。

100KHz方形波。

さらに立ち上がり、立ち下がりが遅れる。



10KHz方形波。

容量負荷の充放電にさらに時間を要するようになる。当たり前の結果だ。

NFB安定性が良くなるといっても、過渡応答的には悪くなってしまうということだ。NFB的になくて良いならない方が妥当なのが出力にシリーズに繋ぐ小抵抗というわけだ。




で、ようやく今回の本題だ。

完全対称型でGOADCマイクアンプに匹敵するDCマイクアンプが可能かどうか、を考えようというのである。

「君の能力を超えているよ・・・」  はっ m(__)m

と、恥をしのんで考えてみるのである。

その結果がこれだ。





こうなっている理由だが、

@NFB回路のインピーダンスをGOAマイクアンプの1/100としたこと。

この理由は以前ここに書いた。要するにこうしないとアンプの電圧ゲインが負荷次第になってしまうのである。それはDCマイクアンプの活用環境からは妥当でないのである。DCマイクアンプはGOAのように負荷インピーダンスの影響を被らない方が吉なのである。

が、そうすると、完全対称型の電圧ゲイン=アンプ全体の電流ゲイン×負荷インピーダンスであるから、GOA並みの電圧ゲインを稼ぐためにはアンプの電流ゲインを100倍も多く稼ぐ必要が出てくる。

このため、

A各段ともエミッタ(ソース)抵抗を挿入せず、最大限の電流ゲインを稼ぐ構成としたこと。

初段はGOADCマイクアンプにならったこともありソース抵抗なしなのであるが、それは初段の電流ゲインを稼ぐ意味でも妥当なのでそうしている。
電流ゲインを稼ぐ意味からはもっとgmの大きいFETを起用すれば良いわけだが、音の点からFD1841(1840)しかない、ということであればシミュレーション上は同様にgmの小さいK30を起用しておく以外にない。
が、いくらかでもゲインを高めるために動作電流は0.9mAとGOAの3倍にした。よってIdss=2mA以上が必要になる。この程度のFD1841ならあるだろう。

2段目と終段はトランジスタである。この回路では要求電流ゲイン的にFETでは困難だ。

2段目の負荷抵抗を220Ωにしたのは、2段目に比較的大きな電流を流してHfeを大きくし電流ゲインを稼ぐためであり、また、終段トランジスタのドライブインピーダンスをいくらかでも小さくして終段TRのCobとで終段入り口に出来るポールをいくらかでも高域に追いやるためである。

終段のアイドリング電流はこの状態で7mA程度である。ただし、下側は2段目上側の動作電流が加算されるから10mA程度になる。
このアンバランスが嫌な場合は、終段アイドリング電流を増やしてアンバランスを散らすか、但聞響さん発明(だったと思う)になる補完回路で2段目上側動作電流を抜いてやる等の手だてを講じることになる。が、ここではそのままにしておく。

果たして、これでGOAマイクアンプ程度の電圧ゲイン、帯域が得られるであろうか。また、それらが負荷抵抗に影響されない状態になるであろうか。

さっそく、位相補正はなしの状態のオープンゲインで出力電圧利得、位相特性を観てみよう。
負荷はパラメトリックに
1KΩ、2KΩ、4KΩ、8KΩ、16KΩ、32KΩ、64KΩである。

結果は、このとおりだ。

これならまあまあなのではないだかろうか。

電圧ゲインは72db(負荷1KΩ)から75db(64KΩ)と負荷の64倍(=36db)の変動に対して3dbしか変動していない。位相特性もほぼ変動していない。これでGOAマイクアンプ以上のゲインが得られている。オープンゲインは出来ればGOAの場合以上に欲しいのである。何故なら、GOAの場合はエミッタフォロアがもともとゲインを電流帰還で100%消費して出力インピーダンスを下げるために使っているからである。完全対称ではそれが出来ない。その分オープンゲインを稼いでオーバーオールNFBに回さなければGOAに匹敵する低出力インピーダンスは得られないのが理屈というものであるからだ。

これ以上のゲインアップは初段にgmの大きいFETを用いるといったこと以外には困難と思われるので、これでいってみよう。






上の状態では所要のスタガー比が確保されていないからNFBアンプとして成功しない。

ので、所要の位相補正をまず考える訳だが、2段目差動アンプの例の位置にCを入れるのが最も効果的だ。
クローズドゲイン設定が37dbと比較的高いこともあって、終段にC1775、C1400、D756、C1811等の金田石でCobの小さいものであれば1pFで良いようだ。




オープンゲイン37dbポイントで位相回転−104°程度が得られる。第1ポールは60KHz付近だ。これでNFB量は低域で37db程度得られることになる。なかなか良さげだ。





終段にCobの大きいいにしえの名石2SC959(960)を用いる場合は、これによるポールの影響が生じるため、位相補正に2pFが必要になる。







これでオープンゲイン37dbポイントで位相回転−105°程度。第1ポールは25KHzに程度に下がってしまうがやむを得ない。





初段のステップ型位相補正の可能性も検討したが、1MHz超付近のトランジスタのベータ遮断周波数によるポールは強力なため、初段ステップ型ではこれによる位相回転を戻しきれない。

結局、2段目の例の位置に2pFを入れる位相補正を併用する以外になかった。



これで安定だが、これでは何故初段でステップ型位相補正をするのか分からないということになる。

2段目のB−C間の位相補正C=2pFだけでいこう。

2段目のB−C間のCで位相補正すると、ありがたいことに連星効果が効果的に働いてくれるのだ。




NFBを掛けてみよう。

まずは終段モールドタイプ。






クローズドゲイン37.4dbでピークもなく、周波数特性の−3dbポイントは4.5MHz程度であろうか。位相も100KHzまではほぼフラットだ。







次は終段C959(960)タイプ。





クローズドゲインはこちらも当然37.4dbだ。ピークのないのも同じだが、周波数特性の−3dbポイントは2MHz程度に下がる。位相もほぼフラットなのは60KHz程度までとなる。




さて、この設定で終段エミッタフォロアのGOAマイクアンプのような容量負荷遮断効果が得られるだろうか。実はこれが今回のキモなのである。

GOAの場合と同様、録音アンプを繋いだイメージで負荷を10KΩにし、パラにコンデンサーを付加してみる。

1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pFのほか、今回はとどめの100000pFも加えてパラメトリック解析。

まずは終段モールドTRタイプ。

結果やいかにぃ・・・(^^;








勿論上が位相で下が電圧利得だ。どちらも線が7本あるが、いずれも上から容量負荷が1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pF、そして、100000pFの場合である。

おお!どの容量負荷の場合もオープンゲイン37dbポイントでは位相回転−120°以内に上手く収まるではないか。

第1ポール位置は容量負荷の増加とともに下がってしまうが、8000pFまでは20KHzを確保している。GOAより低いがそもそもの電圧ゲインはこちらの方が大きいのだからそれを勘案すれば立派なものだ。

良いのではないだろうか(^^;

さて、気づいた方もおられると思うが、いつの間にか位相補正が2pFになっている。
実は1pFでは位相回転が−120°以上になる場合があるようだったため、2pFにせざるを得なかったのである。
が、これで100000pF=0.1uFが負荷にぶら下がってもOKなのだから御の字だ。






次は終段C959(960)タイプ。

同じく負荷10KΩ、パラコンデンサー、1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pF、100000pFのパラメトリック解析。






この場合も、どの容量負荷でもオープンゲイン37dbポイントでは位相回転−120°以内に上手く収まる。

ここでも第1ポール位置は容量負荷の増加とともに下がってしまうが、こちらは8000pFまでは15KHzを確保しているといったところだ。

まあ、これも良いのではないだろうか(^^;

これで、今回考えた完全対称型DCマイクアンプの位相補正は、2段目差動アンプ例の位置における2pFに統一されることになった。






GOAの場合と同様に出力にシリーズに10Ωを繋いでその効果を観てみる。

まずは終段モールドTRタイプ。






おお!これはこれは・・・。完全対称型の場合はGOA以上に効果が得られる。のは連星効果が働くせいだろうか。

これなら位相補正は1pFでもOKだろう。





同様に、終段C959(960)タイプの場合。






同様だ。

どうだろう。ここまでの結果からはこの完全対称型DCマイクアンプ、GOADCマイクアンプ並みの性能は発揮できそうに思えるのだが・・・(^^;




あとは、方形波応答で容量負荷安定性と容量負荷ドライブ能力を確認してみよう。

GOAの場合と同様に、出力には録音アンプを繋いでいることを想定し10KΩを繋ぐ。
さらに長いケーブルによる容量負荷をイメージしたCをパラに繋ぐ。
Cはパラメトリックに1000pF、2000pF、4000pF、8000pF、16000pF、32000pF、そして100000pF=0.1uFだ。

さっそく100KHz方形波。

終段モールドTRタイプ。








オープンゲイン周波数特性から予想されたとおり、GOAに比較するとややスピードは劣るが、安定度に問題はなく、GOADCマイクアンプに勝るとは言えないが、匹敵する結果が得られたと言ってよいのではなかろうか。





これは出力シリーズに10Ωを入れた場合である。

GOAの場合と同様、充放電に時間を要する結果となる。GOAの場合と同様、なくて安定ならば出力にシリーズの抵抗は入れない方が妥当なのだ。




これは10Ω抵抗なしでの10KHz方形波応答である。





同様10Ω抵抗ありの場合。




次に終段C959(960)タイプの場合。





100KHz方形波応答。出力シリーズ10Ω抵抗なし。




100KHz方形波応答。出力シリーズ10Ω抵抗あり。


10KHz方形波応答。出力シリーズ10Ω抵抗なし。



10KHz方形波応答。出力シリーズ10Ω抵抗あり。



どうだろう。

これなら何とかGOADCマイクアンプ並みの完全対称型DCマイクアンプにはなったように思うのだが・・・(^^;

が、周波数特性や方形波応答スピードで明らかなように、これでも特性的には決してGOAマイクアンプを超えていない。

まして音が良いものかどうかは全く分からない。

完全対称型マイクアンプ。実に難しい・・・(^^;




実は、上で考えた完全対称型DCマイクアンプは終段も最大限の電流ゲインを得るためにエミッタ抵抗を入れていない。

だから、実機として実際に動作させる場合は終段TRの温度補償が必要になる。

手法としては我が完全対称型ヘッドフォン(専用)アンプのように初段負荷抵抗の上にサーミスタを載せて、これを終段TRと熱結合して温度補償とするのが良いだろう。

が、それは余りに面倒だ。できれば終段にエミッタ抵抗を入れて温度補償なしで安定に動作するものにはできないだろうか。

ということで、最後に、終段C959(960)タイプをモデルとして、その可能性を考えてみよう。

回路はこうなる。

初段以外はNo−168に似ている。

まずは負荷抵抗を1KΩから64KΩまで同様に変化させての電圧利得、位相の周波数特性。






こうすると終段のゲインが下がり、2段目も動作電流が減るので2段目のゲインもやや減ってしまう。結果オープンゲインは61.5db(1KΩ)から64.5db(64KΩ)と減って、GOAマイクアンプ以下のゲインになってしまう。

が、これで第1ポールは60KHz程度であるし、オープンゲイン37dbポイントの位相回転も−110°程度であるので取りあえずOKだ。







次は、容量負荷を1000pFから100000pFまで変化させた場合の、電圧利得、位相の周波数特性なのであるが、ここで位相補正に5pF必要であることが明らかになった。








終段電圧ゲインが減ったために、連星効果が減り、上の場合と同様に高域の位相回転を遅らせる連星効果を得るためには位相補正に5pFが必要になったのである。

結果、ゲインが小さいのにポールの位置は下がってしまう。
嬉しくない結果なのだが、やむを得ないのだ。






出力にシリーズに10Ωを繋ぐ効果は、







この場合も同様である。







続いて方形波応答である。

ここで、何故今回考えた完全対称型DCマイクアンプにおいて上の構成が必要だったのかが明らかになるのだが・・・(^^;

100KHz方形波応答。出力シリーズの10Ω抵抗なしの場合。






こういうことなのである。

要するに出力インピーダンスが下がりきらないために、スルーレート(か?)が足りないのだ。



こちらは出力にシリーズに10Ωを繋いだ場合なのだが、それ以前のアンプ自体の出力インピーダンスが高いため差が見られない。

これではGOAマイクアンプに明らかに劣る。





10KHzの方形波応答。出力10Ωなしの場合。

容量負荷では明らかに狭帯域になってしまっている。

オープンゲインが足りないのだ。
NFB量が不足なのだ。
そのため出力インピーダンスが高すぎるのだ。







こちらは10Ω付きの場合だが、100KHzの方形波の場合と同様、10Ωありなし以前の問題なのである。






こうしてみると、完全対称型のDCマイクアンプは実に難しい。と思う。

完全対称型のDCマイクアンプがなかなか発表されないのも分かるような気がする(僭越ながら m(__)m)。


なお、実際にDCマイクアンプの出力に長いケーブルを繋いだ場合は、ここでやってみたC分のみならず、R分、L分も負荷されることになる。が、リモートセンシングする訳ではないから、マイクアンプでそれらを制御することは不可能だ。だからここで見た方形波応答などは実際の長いケーブル末端ではもっと厳しい状況になっているものと思われる。


さて、K先生の新作完全対称型DCマイクアンプが発表されるとすれば、それはGOADCマイクアンプを明らかに超えるものとなるだろう。

ここで考えたものは全くそのレベルには達していないわなぁ・・・。

当たり前か(^^;


以上、毎度のことながら、このシミュレーション結果及び私の拙い解析に妥当性があるのかどうかは全く保証の限りではない。ので、あしからず。




(2003年3月15日)